ニッセイ経営情報 平成15年4月号
1、はじめに 2、自己資本比率算定と税効果会計
3、自己資本比率とは 4、貸し渋り、貸し剥しの効果
5、不良債権処理とオフバランス化 6、不良債権最終処理の自己資本比率への影響
7、税効果会計のからくり 8、終わりに -----------------------------------------------------------------------------
経営情報 平成15年4月号
税効果会計見直し論と自己資本比率
1、はじめに
税効果会計は、企業会計と税務会計の損益認識時点のズレを調整して、損益計算書の税引前
当期利益の次に表示する「法人税等」の額を「適正に期間配分する」、極めて合理的な会計手法
であるにもかかわらず、繰延税金資産が金融機関の資本金や剰余金などの「中核的自己資本」
(Tier1と呼ばれる)の47%(2002年3月期)も占めているが故に、逆に合理的な会計手法が批判
されている。
そして、前号では、不良債権問題に絡んだ税効果会計見直し論の報道の不正確さが気になる
点について触れた。
今回は、繰延税金資産の計上基準の厳格化と自己資本比率算定の問題について触れてみたい。
自己資本比率算定にあたって、現在はすべて中核的自己資本に算入している税効果を、一部し
か認めないようにする方向で検討しているという点が気になるからである。
2、自己資本比率算定と税効果会計
繰延税金資産の資産性、もっと専門家風に表現するなら、繰延税金資産の回収可能性が問わ
れているのである。この回収可能性が薄いのではないかとの疑念が、自己資本比率算定上、中
核的自己資本に算入している繰延税金資産を一部しか認めないようにしようという議論に発展
している。
このことは会計理論を自ら否定するもので、自己資本比率算定と税効果会計は関連付けて議
論すべきものではないにもかかわらず、誤解しやすい会計知識のもとで議論が混乱しているよ
うに思えてならない。混乱しているからこそ、金融機関には税効果会計を認めないとか、中核
的自己資本への算入割合を制限しようとする考え方が発生する。
もとより、繰延税金資産の計上の妥当性については、より一層厳格な判断が求められるのは
いうまでもないが、本稿はその点を論ずるものではなく、厳格な判断のもとに計上された結果
の繰延税金資産を前提に話を進めるものである。
繰延税金資産を自己資本算定と関連して考えるとしたら、リスク・アセットのウェイト付け
で考慮する余地があるかもしれないが、中核的自己資本への算入割合を制限しようとする考え
方には賛成しかねる。
それでは、自己資本比率とはどのように計算するのであろうか。わかりやすく、図で説明し、
リスク・アセットの考え方も明らかにしたい。
3、自己資本比率とは
金融業における自己資本比率とは、次ページ貸借対照表図のリスク・アセットに対する、自
己資本の割合をいう。
ここでのリスク・アセットとは、図表左側借方のグレー部分であり、自己資本とは、図表右
側貸方のグレー部分をいう。
(図は後から挿入します。)
4、貸し渋り、貸し剥しの効果
最近、金融機関の貸し渋り、貸し剥しということが話題になっている。金融機関は、「企業側
の資金需要がないから、その結果、貸出総額が減少しているに過ぎない」と主張している。
ここでは、その理由を説くことがテーマではないので、この点については触れるつもりはない
が、自己資本比率算定上、貸出金を回収すると、どうなるかという点だけ説明したい。
一般貸出金を10億円回収して、その金額を現金にしたとする。貸出金という資産が現金に換
わっただけであるから、一般企業であれば、自己資本比率に変化は生じない。
ただし、金融機関の自己資本比率は、リスク・アセットに対する、自己資本の割合をいうの
であるから、リスク100%の貸出金がリスク0%の現金に替わっただけで、分母の資産が10億
円分減少し、その結果、自己資本比率も増加することになる。
ただし、金融機関は、自己資本比率を上げるためだけにこのような行為をすると、預貸率(貸
出金の預金に対する比率)が減少し、収益を圧迫することになる。
5、不良債権処理とオフバランス化
前号でも触れたが、不良債権問題の終結とは、銀行などの金融機関が、不良債権をバランス
シート(貸借対照表)から切り離して(オフバランス化という)処理を終えることで、①不良債権の
外部への売却、②債権放棄などを活用した私的整理、③企業の倒産による貸出金償却(損失処理)
の3通りがあることをまず念頭において考えていただきたい。
不良債権を最終処理し、貸借対照表から貸出金をオフバランス化させると、自己資本比率へ
どのような影響がでるかを考えてみたい。
これは、前号で述べた「不良債権を最終処理して、オフバランス化すると、金融機関は自己
資本比率が下がるから、やりたがらないんですよね」といった議論の、どの点が誤解を与えて
いるのかを明らかにしたいからである。
【事例の前提】
債務者区分が実質破綻先で、貸出金の分類がⅣ、優良保証・優良担保以外のアンカバー部分の個別貸倒引当金が有税で100%設定済みとする。
この部分の金額が10億円で、貸出債権の売却又は法的な破綻先になり、有税の個別貸倒引当金が無税化されたとする。
以下、仕訳で説明する。
(説明を分かり易くするため、アンカバー部分の10億円部分のみの仕訳とする。実効税率は40%と仮定)
① 個別貸倒引当金 10億円 / 貸 出 金 10億円
② 法人税等調整額 4億円 / 繰延税金資産 4億円
不良債権の最終処理の場合、殆どが有税で引当済みなので、①の仕訳だけでは自己資本比率への影響はない。
「債務者区分が正常先」の企業が突然破綻したり、貸倒引当金の引当不足の企業が破綻すると、①の部分は、金額は10億円より少なくなり、「貸倒損失/貸出金」となる部分が生じるので、自己資本比率に影
響が生じる。つまり、不良債権の最終処理によって、二次ロスが生ずる場合である。
不良債権の最終処理と自己資本比率との関係で注意しなければいけないのは、①、②の仕訳に続
く3番目の仕訳である。
不良債権の最終処理で、有税の個別貸倒引当金が無税化されるのであるから、支払う法人税等の税金が減額するか、従前支払った法人税等が還付されることとなる。
したがって、次のような仕訳が、②の仕訳と同時に考えられなければならない。
③ 法人税等 △4億円 / 未払法人税等 △4億円
実際このような仕訳はないが、法人税等の税金の減額効果もしくは、従前支払った法人税等の還付を表現した仕訳と考えていただきたい。つまり、専門家風に表現すると繰延税金資産が無税化によって回収されたということになる。
ただし、法人税法上の膨大な繰越欠損金が存在すると、②と③の仕訳は同時に発生しないが、タイムラグはあるとしても、①~③の仕訳は、原則としてセットで考えなければならない。
職業会計人でさえも、この点が整理されないまま、議論されてしまっている。まして、新聞報道や専門誌でさえ、誤解を与えかねない表現がされている。
会計の専門家でない方々が、誤解を招きそうな記事に接して、日本の金融政策等を判断する方が
間違った方向に行くのではないかと懸念する点は、前号の冒頭でも発言させていただいた。
6、不良債権最終処理の自己資本比率への影響
貸倒引当金の正しい会計処理と貸倒見積額の正しい評価がされていて、かつ二次ロスが発生
しないというかなり難しい前提が必要になるのではあるが、不良債権を最終処理しても、一部
の例外を除いて、原則的には、理論上、自己資本比率への影響はないことは前述した。ただし、
実際は不良債権の最終処理をして、①~③の取引が同時に発生すると、次のように、逆に自己
資本比率は向上する。
ここでは、リスク・アセット総額に対して不良債権をいくら最終処理すると、自己資本比率
(「国内基準」)がどの程度向上するかを考えてみる。
【算式の前提】
リスク・アセットを、Aとする
自己資本(TierⅠ+TierⅡ)を、Bとする
自己資本比率 B/A=r%とする
したがって B=A×r%
不良債権の最終処理のAに対する割合をY%とすると、Y%分最終処理した後の自己資本比
率と当初の比率との差は、次のようになる。
B-A×Y%×0.00625(注)
A-A×Y%
(注)一般貸倒引当金を自己資本に加算できるのは、自己資本比率の分母(リスクアセット額)の0.625%が限度(国内基準の場合)(前掲の自己資本比率の考え方の図参照)
これを整理すると
(r%-0.00625Y%)
(1-Y%) となる。
上記算式が最終処理した後の比率となり、処理する前の比率がr%とすると、その差は
(r%-0.00625Y%) ― r% となり、
(1-Y%)
これを整理すると Y%(r%-0.00625) となる
1-Y%
ここに、具体的に数字を入れてみることとする。地元の地域金融機関でリスク・アセット
の総額が6,000億円で自己資本比率が6%だと仮定する。ここで、思い切り、リスク・アセ
ットの総額の20%の1,200億円の最終処理を実施すると、自己資本比率は、7.34%に変化す
ることとなる。
最終処理をすると、上記で述べたように、理論的には自己資本比率に影響しないはずなの
に、比率が向上するのは、一般貸倒引当金を自己資本に加算できるのは自己資本比率の分母
(リスク・アセット額)の0.625%が限度という取り決めがあるためである。また、上記算式が
成立するのは、一般貸倒引当金が、リスク・アセット全体の0.625%以上あることが前提で
ある。(国際基準では、0.625%ではなく、1.25%となるので、上記の算式とは異なってくる。)
7、税効果会計のからくり
ここまでは、不良債権の最終処理をして、2次ロスが発生せず、かつ税効果がタイムラグな
しで発生するならば、自己資本比率は上昇するという点を説明してきた。
ここからはかなり専門的な話に陥ることとなるが、事の重要性に鑑み立ち入らざるを得ない。
不良債権の最終処理が進み、有税で引当てていた個別貸倒引当金が大量に無税化されると、課
税所得がマイナスとなり、重要な税務上の繰越欠損金の存在する金融機関等に、ゆくゆく数年後は、なる可能性が出てくる。
公認会計士協会の監査委員会報告66号により、「重要な税務上の繰越欠損金の存在する金融機関等」となると繰延税金資産の回収可能性の判断に当たっての将来の合理的な見積可能期間が5年から1年に短縮される可能性も生じ、その結果、1年間の課税所得だけでは、支払う税金が減少するという税効果の余地が大幅に減少して、大量の繰延税金資産の取崩しが行われ、自己資本比率が大幅に減少する可能性も出てくる。このことが不良債権の最終処理を遅らせることにならなければよいと考えている。いや、事実、この点があるために、最終処理をためらう金融機関があっても、当然といえる。
公認会計士協会の監査委員会報告66号の解説、もしくは不透明さを指摘する場ではないので、
詳説しないが、とにかく、税効果会計は複雑なのである。
8、終わりに
税効果会計とか繰延税金資産とかの極めて専門的な用語が一般新聞報道でたびたびなされる
のを見るにつけ、そして職業会計人でさえ混乱した会話をしがちな点に接して、一般の経営者
や、評論家等が間違った判断をしないだろうかとの思いから、かなり細部の話題まで書くこと
になってしまった。
不良債権の最終処理の意味と会計への影響、金融機関における自己資本比率の意味、貸し剥
しとの関係、不良債権の最終処理と自己資本比率の関係等の理解の一助になれば幸いである。
公認会計士 渡辺俊之
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