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人生百年時代を迎えてアフターコロナ禍のスキルについて 2021年7月

「キャリア権」法制化を目指す会紀要第3号 P236

(2021年7月27日ご寄稿)

人生百年時代を迎えてのアフターコロナ禍のスキルについて

 

渡  辺  俊  之

 

 

「キャリア権」なる言葉を初めて知った。

キャリアとかスキルという言葉に馴染みはあるものの、ヨガ講師である娘のヘッドマッサージの顧客であった髙井伸夫弁護士との繋がりが無ければ一生知らなかったかもしれない。

そして「キャリア権」に関する諸資料並びに御著書を恵贈いただき、それらの資料を通読する過程で、私の持論である「人生四分説」と重なる部分もあるかもしれないと思い、整理をしてみる機会と捉え、ここ数か月、自問自答しながら時間が経過してきた。

 

1.人生百年時代と人生四分説

「人生百年時代をどう過ごすべきなのか?」このテーマがおぼろげに頭の中を巡っていた。

そんな中、社会奉仕団体であるロータリークラブの会長就任時の挨拶やら、大学院卒業式での祝辞の挨拶やら、公認会計士稲門会(早稲田大学卒業者の同業者の会)での会長挨拶とかを考えたり、あちこちで依頼された原稿を書いているうちに、おぼろげだった「人生百年時代の生き方」がだんだん整理されてきた。

 

そして拙著『会計リテラシーで見えないお金が見えてくる』を読んでくれた方から「人生百年時代の会計人の生き方」のテーマで講演をするよう依頼を受けた。

このレジュメを作成する過程で「人生百年時代の生き方」のモヤモヤ感が一掃されたといってよい。

この中で私は「人生四分説」を訴えた。

◆ 第1期:仕込期・教育期

0歳~10歳代後半・20代前半まで

◆ 第2期:仕事&学び期

20 代から60歳代

◆ 第3期:仕事&束縛のない自由生活期

60歳代→ 後半人生年少組

70歳代→ 後半人生年中組

◆ 第4期:自己超越期

80歳代→ 後半人生年長組

90歳代→ 老年者成年組

100歳代→老年者超越期

 

この分類は、作家森村誠一氏の人生三分説や、古代インドの人生論 にある「学生期、家住期、林住期、遊行期」の考え方をも参考にした私なりの定義である。

マズローの欲求5段階説の「①生理的欲求 ②安全への欲求 ③社会的(帰属)欲求 ④尊厳(承認)欲求 ⑤自己実現欲求」も参考にしている。

そしてマズローは6段階目も考えていたという。それは自己超越(コミュニティの発展)だという。

 

一方で、孔子は、

15歳 志学:吾十有五にして学に志し、

30歳 而立:三十にして立ち、

40歳 不惑:四十にして惑わず、

50歳 天命:五十にして天命を知る、

60歳 耳順:六十にして耳順い、

70歳 従心:七十にして心の欲する所に従い矩を踰えず、

と言っている。しかし孔子はここまでしか言わなかった。

 

80歳代は何?  90歳代は ? そして人生百年時代の締めくくりの 100歳代は?

そこで私は人生百年時代に対応すべく次のように考えてみた。

 

80歳は「超越」、90歳は「悟道」、100歳は「昇華」と定義づけてみた。

80にして、「超越」即ち、自己実現を果たし、自己超越の世界を臨むべし。まさしくマズローの欲求五段階説の番外の6段階目に符合する。

90にして、「悟道」即ち、身を立て道を行い名を後世に残し、世の中の道を悟るべし。

100歳にして、「昇華」即ち、悟りの道 を開いたあと霊界へ向けて浄土の世界へ昇る準備をすべし。

 

さて、上記のような考え方がまとまっていた時に「キャリア権」という初めて耳にする言葉に偶然出会った。そして時あたかもコロナ禍の最盛期、ますますこのような苦境の中にあって、この後どう生きるべきか?スキルやキャリアと自らの人生の過ごし方を考えるきっかけができたといってよい。

 

2. スキルやキャリアの必要性

「キャリア権」とは、その理念として「人々が意欲、能力、適性に応じて、希望する仕事を準備、選択、展開することにより、職業生活を通じて幸福を追求する権利」とされている。

すなわち「職業生活を通じて幸福を追求する権利」となる。人間は生きていかなければならない、その為には食べていかなければならない、すなわち働かなければならない。

しごく当たり前のことをしなければ幸福は追求できないということ。

平成30年5月30日の日本経済新聞の朝刊に、「定年のない社会を」と題する記事が載った。

人生百年時代を見すえて定年のない「エイジフリー社会」の構築を求める政府への提言を自民党の「人生百年時代戦略本部」がまとめたものである。

日本の国の形について国民的な議論を巻き起こしたいとする、小泉進次郎氏達の提言に多いに賛同するものである。

キャリア権を考える前に「スキル」とか「キャリア」について考えてみよう。

働く意欲と、働くスキルと、働く場と、働ける健康さえあれば、「老年者・年中組」たる70歳代でも全然問題ない時代といえる。

定年なんていう、節目がこの日本国にあるが故に、年金の問題、医療費負担の問題等々様々な問題が出てきてしまうのである。

 

そして定年間際の管理職等の職種になると、判断業務のみで、細かな作業をしなくなるような職場構造も問題である。

健康でさえあれば、そして老化に伴う視力や聴力の低下等の肉体的ハンディも矯正可能となっている。

 

私自身「老年者・年中組」真っ盛りであるが、意識して、管理業務以外の現場作業、つまり会計士監査現場への往査、細かな資料の読み込み、エクセルシートの読み込みやら作成、決算書、申告書の作成、電子申告等も敢えてチャンスを求めて行うようにしている。まあ最近はあまりやらせてもらえなくなったが…。

何を言いたいのかというと、老年者だから細かな仕事は無理だと決めつけてしまう今の日本の社会の風潮を払拭しないとダメだと言いたいのである。

 

後進を育成する必要性から早めに引退して、その培ったスキルを継承させる必要があるという論理で定年制を肯定する考えもわからないことは無い。しかし超高齢化社会が生み出す弊害を乗り越えるためには、その後進育成の時期をあと十年近く、先に持っていかないと人生百年時代を世界で真っ先に体験する我が日本国はダメになると断言する。

人生百年時代を迎えて、日本国民全体の意識改革をしないとダメである。

 

私の生まれた足袋の町・行田市が舞台になったドラマ「陸王」の中で気になった言葉がある。

シルクレイ開発者の飯山晴之役の寺尾聡のセリフ「ほんとうに大事なのは、自分と自分の仕事にどれだけ胸を張れるか」この言葉が耳に残っている。 困難や脅威に直面してうまく適応できる能力すなわち、レジリエンス という言葉。今を生き抜く力としてのスキルやキャリアを積むことによって、自分への自信と仕事への自信、そして誇りとやりがいをも感じられ、毎日が楽しくなるのである。

少し話が違う方向へ行きそうなのでもとに戻すことにする。

 

3.働くことの前提-健康維持の秘訣-

人生百年時代の三要素は、1.健康 2.ゆとり(心と物) 3.生き甲斐であるが、私は健康、すなわち「元気になる素」を「3つのS」とした。

一、Stress を溜めない

・雇われの身でない

・後ろ向きの仕事に近づかない

二、Span of Control(統制の範囲)をわきまえる

・組織を拡げ過ぎるとストレスが溜まる

・拡げても権限移譲や目標管理(MBO)ができないとストレスが溜まる

三、Skillを磨く

人生二毛作(後半人生は別の仕事又は活動)、若くは人生二期作(後半人生も前半と同じ仕事又は活動)に備える為に、

・仕事のスキルを磨く

・趣味のスキルを磨く

 

つまりストレスのない暮らし方、ストレスが溜まってもそれを解消する術を身につける事で健康が保証されるといえる。

上記の3番目に「仕事のスキル+趣味のスキル」とあるが、この言葉を「キャリア」と置き換えてもいいかもしれない。

人生を豊かに、そして充実した楽しいものにするには、「人生四分説」で言ってきたように、第1期:仕込期・教育期、そして 第2期:仕事&学び期、を通じて培ってきた仕事上のキャリアや人格形成・趣味等のキャリア・スキルが、人生第3期以降に大いに役に立ってくることになる。

 

50歳代では孔子の言うように、「天命」を知り、その後の人生の楽しみ方をわきまえているのであるから、「耳順」の60歳代、従心の70歳代を豊かにするには、キャリアやスキルを身に着けてきた過程で整えておかなければならない。

 

さてこれからが、私が言いたい、第4期「自己超越期」に入ることとする。

80歳は「超越」、90歳は「悟道」、100歳は「昇華」と先に述べた。

まだ私自身は、「老年者・年中組」なので、この境地は実感ではなく想像の世界となる。

しかし自己満足なるものの、自分なりの自己実現は、見えてきた気もする中、もう少し生き長らえて、第4期である「自己超越期」に入れれば、なんて考える今日この頃といえる。

もう少し生き長らえるためにも、健康、すなわち「元気になる素」である「3つのS」を得られる環境に自分を置くことから、すべてが始まり、人生の第1期・第2期・第3期で培ったキャリアを活かせる第4期人生が送れると考える。

 

4.キャリア権の持つイメージ

キャリア権という言葉を初めて聞き、これに関する寄稿を求められてから、キャリアの後につく「権」って何だろうと気になり始めた。

「人々が意欲、能力、適性に応じて、希望する仕事を準備、選択、展開することにより、職業生活を通じて幸福を追求する権利」このキャリア権に対比されがちな言葉というより両者の関係性が問われる言葉に「人事権」なる言葉があるという。

働く者のキャリアの問題の重要性は大であり、法律的見地からの擁護があってしかるべきといえる。その意味で「キャリア権の法制化」を目指す運動は意義あるものとなろう。

しかし人事権との関係性が常に問題になるということは、キャリア権とは、労働者の立場からの視点のように思えてならない。人事権なる言葉の故に、総合職で大手企業に入社したからには、日本各地いや世界各国への「転勤」という言葉に逆らえないのは致し方ないという文化がし染み込んでいる。

働く者のキャリアの問題というより働かされる者のキャリアの問題という一面が見え隠れする。戦後の日本経済の発展を支えてきてくれたのは、企業に働く者の献身的努力の成果といえる。いい大学に入り、いい会社に入り、定年まで働かせてもらう。そういう風土が染込んでいるのが現在の日本国といえる。

世界のどこよりも起業頻度の少ないわが日本。定年制と終身雇用制度がこのような風潮を生んでしまったといっても過言ではない。

従って働かされている、人に仕えているということから、ストレスがたまり、定年を迎えるのを待ちどおしく思っている人たちも増加してきている。

それは何故なのか? 上司と部下との板挟みの中での人間関係の煩わしさ。同僚間の組織内での軋轢、人間関係の複雑さ、パワハラ…。ストレスのたまることばかり。

そこで私は、声を大にして申し上げたい。「元気になる素」の「3つのS」すなわちスキル(キャリア)をため、ストレスをためず、分相応の経営をして、自分と自分の仕事に胸を張れるようになっていただきたい。

「キャリア権の法制化」を待つまでもなく、人生の第1期、第2期でキャリアを積んで、第3期に向けて、いや第2期の途中ででも起業をしていただきたい。

そうしてこそ、人生百年時代の3要素、1.「健康」 2.「ゆとり(心と物)」 3.「生き甲斐」が得られるのではないだろうか?

人に雇われるより、一人の会社でも好きな仕事をやっている方が、とっても気が楽なはず。

キャリア権という権利は現存していないが、医師や弁護士、公認会計士といった資格に限らず何らかの資格を保有することがキャリア権が目に見える形で手に入り、手っ取り早いかもしれない。だからと言って「士業」のような法的な資格を得よ、と言っているのではない。

そもそも「キャリア権」なる言葉は、お役人には受け入れられないかもしれない。上級公務員職の候補となり得る特権官僚からすると「キャリア組」なるお役人の間に染込まれている言葉と似ている「キャリア権」という言葉は、受け入れがたいと危惧してしまう。別の言葉を選んだ方がいいかもしれない。

アフターコロナの時代になればなるほど、自らが持つスキルやキャリアが生かされないまま埋没しかねない。時代の変化に即応できるスキルと自由さ、身軽さをもって人生百年時代を生きぬこう。

◇ ◇ ◇

 

(公認会計士・税理士

渡辺公認会計士事務所 代表 税理士法人優和 創業者)

 

参考図

 

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(以上)

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◎ 渡辺 俊之(わたなべ・としゆき)

昭和19年生まれ。同38年3月 東京都立九段高校卒業。同43年3月 早稲田大学第一商学部卒業。同45年4月監査法人千代田事務所(当時。元中央青山監査法人)入社。同50年4月渡辺公認会計士事務所 代表。平成16年4月 税理士法人優和 理事長。令和3年6月退任し会長就任。

平成8年 日本公認会計士協会 理事、同11年 同協会 常務理事(経営担当)、同14年 同協会 常務理事(財務担当)。

昭和59年 公認会計士協会東京会 税務委員会 委員長、平成7年 公益法人特別委員会 委員長。ほかに一般企業の社外監査役、東京都港区の包括外部監査人 監事 委員等を多数歴任。平成30年7月まで公認会計士稲門会 会長。平成30年7月~令和元年6月 東京みなとロータリークラブ 会長。

主な著書は、『伸びる会社のズルいお金の使い方』(幻冬舎):単著、『加除式 一般・公益社団・財団法人の実務-法務・会計・税務』(新日本法規出版):編集責任者、『加除式 不動産有効活用の実務と対策』(第一法規出版):編集責任者、『公益法人の運営と会計・税務』(新日本法規出版):編著、『中間法人の設立・運営の実務』(新日本法規出版):編著、『会計リテラシーで見えないお金が見えてくる』(総合法令出版):単著など多数。                                    ——————————————–